【今月のまめ知識 第66回】 転位と降伏、そして耐力

公開日時:2018/09/21

とあるのんきな昼下がり・・・

博士「あるるよ、気のせいかもしれないが、最近色つやがいいのぅ」

あるる「そうですか? 今年は以前博士が教えてくれた「ネバネバパワー」を いっぱい食べてたからかなー?」

博士「なんと! 5年前のやりとりを覚えておったか!それは感心感心」

あるる「えへへ♪  納豆、オクラに、めかぶに、とろろ。おじいちゃんと一緒に 最低でも一品、毎日食べました! おかげでおじいちゃんも夏バテ知らずです」

博士「そうか、そうか。それはなによりじゃ。粘りも強さのひとつじゃと お前に教えたのは、2013年のことじゃった。 その知識が今に役立っているとは、感慨深いノゥ。」

あるる「こちらこそ、ありがとうございます!」

博士「よしっ!今日はその時話した「降伏」をさらに深掘りしていくぞ」

あるる「いやだなぁ、博士。今でも十分幸福ですよ。 これ以上求めたら、それこそバチが当たっちゃう」

博士「・・・それは“幸福”じゃな」

あるる「はいっ!」

博士「いや、わしが言っているのは“降伏”なのじゃが・・・・」

あるる「コウフク?」

博士「・・・あるるよ。もしやあの時の授業は、ネバネバしか覚えておらんのか?」

あるる「はいっ!」

博士「そこまで言われると清々しいのぅ〜。わしも辛抱強くなったものじゃ」

第5回「強さって何?~引張り強さと耐力~」で降伏点と耐力の話をしました。

高強度鋼やアルミニウム、銅などは明確な降伏点がありませんが、構造用鋼などでは降伏点があり、

前回説明した転位と深い関係があります。

 

今回はこれらについてお話します。

 

応力-ひずみ線図

降伏点付近を拡大してみると、

A点:比例限度

B点:弾性限度

C点:上降伏点

D点:リューダス帯開始点

E点:下降伏点

F点:ひずみ硬化開始点

 

以上5つのポイントがあります。

 

A点まではフックの法則に従う範囲です。

B点までは荷重を除いた時に、永久ひずみを残さない範囲です。

A~B間は直線的な動きではないので、弾性範囲でありながらフックの法則に従いません。

 

B~C点間は荷重を抜いても僅かの永久ひずみを残します。

そしてこのC点が上降伏点です。

一般に降伏点というと、この上降伏点を指します。

 

この後D~F点間は、ほぼ一定の荷重でひずみが増えていきます。

 

そしてF点からはひずみを大きくするために、荷重を増す事が必要となります。

 

何故このような複雑な動きになるのか、それはコットレル効果というものが関係しています。

 

前回説明した侵入型固溶体において、固溶元素が母材の元素に対してかなり小さい場合には、

刃状転位の部分に集まりやすく下図のように侵入して固着した状態を、コットレル雰囲気と呼び、

これによって塑性変形が起こりにくくなる事をコットレル効果と言います。

つまり、このコットレル効果によって、本来転位に降伏する応力(下降伏点)より

大きな応力まで耐えることができ、これが上降点となるわけです。

 

そしてD~F点間ですが、一旦動き出すと炭素原子を振り切っているので、

容易に転位が起こり滑りが生じていきます。

この区間をリューダス帯と言います。

 

それがある程度経過したところで加工ひずみにより、ひずみ硬化が起こり、

再び応力が大きくなっていきます。

 

例えるならば、河川において堤防が決壊したが、流出した土砂で再び詰まったという感じでしょうか。

 

応力ーひずみ線図では、最大引張応力を過ぎると応力が減少していきますが、

これは伸びにより断面積が小さくなっていくためで、単位面積当たりの応力は

破断まで上昇し続けます。

 

次にアルミニウムなどで使用される0.2%耐力ですが、これは明確な降伏点を持たない材料に対して、

0.2%の永久ひずみを残す応力という定義です。

1000mmの試験片において2mm伸びた状態が0.2%ですね。

 

何故0.2%なのか?

 

低炭素鋼の上降伏点が0.2%程度の永久歪みを残すからという説もありますが、

そんなに安定したものではないので本当のところはわかりません。

 

材料の種類によっては0.3%や0.5%耐力も使用されるようですが、

アルミニウムに置いては通常、0.2%耐力を使用します。

そして簡易的に比例限度を耐力の75%程度と考えます。

 

ちなみに、比例限度や弾性限度は現実的に測定が困難であり、0.02%の永久ひずみを残す応力を弾性限度と定義するようです。

 

そういった事から比較的明確な上降伏点や0.2%耐力が基準として良く用いられます。

 

 

博士「どうじゃな、あるる。今度こそ「降伏点」についてわかったかの?」

あるる「うーん、うーん・・・」

博士「おや、どうしたあるる。目がくるくるしているようだが・・・」

あるる「は、はい。知らない言葉がいっぱい出てきて、今、頭がいっぱいいっぱいですぅ〜(@ @;)」

博士「ふぉっふぉっふぉっ。あるるにはちと、難しすぎたかの? まぁよい。ゆっくり覚えていけばよいのじゃ」

あるる「もう博士ったら、いきなり本気出し過ぎですよぉ〜。今日のところはあるる、降参です<(_ _)>」

博士「いや、降参ではなく降伏じゃぞ。言葉は正しく使わないとな」

あるる「・・・ええええ・・・だから降参・・・いえ、あ、なんでもありません。博士のおっしゃる通りです・・・」

 

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