【今月のまめ知識 第64回】アルミニウム合金の熱処理
公開日時:2018/07/23
とあるのんきな昼下がり・・・
あるる「博士、今って「時効」って廃止になったんですか?
博士「なんじゃ急に。「時効」って、殺人事件とかの、あれか?」
あるる「そう、それです! 昨日、おじいちゃんと刑事ドラマ見てたら、
海外生活が長い犯人、時効がなくなったことを知らずに帰国して、捕まっちゃったんですよ〜」
博士「ほう・・・」
あるる「その時の刑事さんが、すごくかっこよくて!憧れちゃうなぁ〜」
博士「ふぉっふぉっふぉっ あるるはすぐに影響されるからのぅ〜」
博士「確か、2010年の4月27日に廃止されたんじゃなかったかの?」
あるる「へぇ〜、そうなんですねぇ〜」
博士「あるるよ、「時効」ならアルミの世界にもあるぞ」
あるる「え? アルミに時効が?」
博士「知りたいかな?(ニヤッ)」
あるる「もちろんです!」
博士「よし、それでは話してしんぜよう」
アルミニウム合金展伸材の材質の末尾に、T5などの表示があります。
「第3回 こんなにあるぞ!アルミニウム合金の種類」で、下図の通り型式呼称の説明をしていますが、この末尾の質別記号というのは、「調質」を行う場合の記号です。
アルミニウム合金展伸材は、非熱処理型(1000系、3000系、4000系、5000系)と熱処理型(2000系、6000系、7000系)があります。
代表的な調質は非熱処理型だと加工硬化の「H」、熱処理型だと時効熱処理の「T」です。
「時効熱処理」とは時効硬化(析出硬化)を利用した熱処理です。
これは材料に含まれる添加物が結晶となって析出し、原子が転移して変形することに対する障害物となるため、強く(塑性変形しにくく)なるというメカニズムのものです。
ちなみに「第53回 縦弾性係数(ヤング率)」で、弾性変形は原子間の距離を変えようとする動きである事を説明しました。
上述のような結晶の析出は、原子の転移に抵抗するものであり、原子間の距離を変える力には影響しません。
つまり、熱処理により、塑性変形しにくく硬くなり、引張り強さが大きくなっても曲げ剛性に変化はないということがわかるでしょう。
時効硬化はアルミニウム合金以外でも、マグネシウム合金、銅合金、ステンレスなど色々な金属で利用されていますが、アルミニウム合金ではAl-Cu合金(添加物として銅)が代表的です。
2000系では溶体化処理(焼き入れ)後に常温でも時効硬化が起こるのですが、6000系や7000系では常温では時間がかかるとともに十分な強度が得られないため、高温環境に一定時間おきます。これを人工時効硬化処理と呼びます。
Tの詳細は以下表の通りです。
博士「どうや、あるるよ。アルミの時効は?」
あるる「う〜ん、思っていた「時効」と全然違いましたけど・・・まったく違う内容なのに、同じ漢字を使うんですね」
博士「おやおや、引っかかったのはそっちかい!」
あるる「う〜ん、気になるぅ〜。なんでだろう??? よし、その謎を解明するぞ!」
博士「刑事気分だけは持続しているようじゃのぅ」