【今月のまめ知識 第11回】ネジはなぜ締まる?緩む?(前編)
公開日時:2014/02/19
あるる「あれ? ドアのネジが緩んでるぞ! 先月は椅子を壊しちゃったから
博士が来ないうちに、直しといてあげよーっと」
あるる「ドライバー、ドライバーっと」
ふんふ〜ん♪ と、鼻歌まじりにネジを締め始めたその瞬間!
博士「はい、おはよう。あるるー、宿題やってき・・・・×○△□◎×Σ(@ω@;)★※!!! 」
あるる「わぁーーーっ! 博士ぇ〜〜〜〜っ!!!」
博士「おおっ、このドアは、いつからこんなに豪快に開くようになったのか?」
あるる「ネジが緩んでいたから、今、締めていたところなんですよ〜っ! ボルトが抜けちゃったじゃないですか!
それに博士ったら、今日に限って来るのが早いです! まだ5分前ですよっ!」
博士「あれ、そうか? そりゃ、すまん、すまん。雪が降ったんで、いつもより早く家を出たんじゃ」
あるる「さすが!」
博士「ところであるる、このドアのネジ、なんで緩んだのだと思う?」
あるる「へ? 古いから…じゃなくて?」
博士「ふぉっふぉっふぉっ、せっかくじゃから、今日はネジの話をしてみようかのぅ」
私たちの身の周りには必ずといってよいほどネジが用いられています。
ごくまれに ネジが緩んでガタガタするなどの経験があると思います。
今日は、「ネジはなぜ締まる?緩む?」についてお話いたしましょう。
図で理解しよう! ネジが締まるワケ 緩むワケ
ネジには大きく分けて「おねじ」と「めねじ」があります。
ネジ山の角度や隣り合うネジ山の距離を表すピッチ、内径、外径などが規格で定められています。
「おねじ」と「めねじ」の違い
上の図のように、ネジ山は螺旋状になっています。
これを螺旋階段状の滑り台だと思ってください。
さらに解りやすくするために、この螺旋を開いて、三角形の滑り台にして考えていきましょう。
この三角形が作る斜面が、ネジの螺旋ということになります。
滑り台の端に立って、垂直に荷物を引き上げるのは、かなり大変な作業になりますが、
斜面に沿って押し上げていけば、作業はずいぶんと楽になります。
この事から解る様に、ネジは小さな力で大きな締め付け力を得ることができるのです。
ネジの物理的な働きは、斜面と摩擦によって実現されています。
ネジを締めるということは、滑り台にある荷物を押し上げて行くこと
ネジを緩めるということは、滑り台にある荷物を押し下げて行くことになります。
「緩む」ってどういうこと?
冒頭でも申し上げた通り、ネジはまれに勝手に緩んで、ガタガタすることがあります。
この「緩む」というのは、滑り台の斜面に載せてある荷物が、
他から力を加えていないのに自然と滑り落ちて行くという事です。
このとき重要になるのが、斜面の角度です。
荷物が滑り始める角度を「摩擦角」と言います。
ネジの摩擦係数は通常、無潤滑でμ=0.2~0.3、油潤滑でμ=0.1程度です。
斜面角度のsinθが摩擦係数μになりますから(sinθ=μ)
μ=0.1で摩擦角は5.7°
μ=0.2で摩擦角は11.5°
μ=0.3で摩擦角は17.5°
となります。
図の滑り台は、メートル並目ネジの場合で、リード角(螺旋の角度)は3°前後なので、
いずれも荷物が滑り落ちることありません。
つまり「緩まない」ということです。
緩まないということは、締まる(固定できる)ということになります。
では、なぜネジは緩むことがあるのでしょう?
なぜネジは「緩む」のか?
まず、ボルト(おねじ)も被締結物も弾性体であり、いわば非常に強いバネです。
ボルトを締めつけると、ボルトが伸びて軸力(バネとして引っ張られた力=張力)が発生します。
このボルトの軸力が、先に例えた滑り台の荷物の重さに相当します。
そして、被締結物には反縮力(圧縮された力=締付け力)が発生します。
互いにつりあったこの力を予張力と言います。
もし、ボルトも被締結物も弾性体ではなく全く変形しない硬いものだったら
ネジには軸力が発生しないので締まりません。
実はこの「軸力」が大切なのです。
ネジの緩み方は、大きく分けて2通りの理由があります。
・ネジが戻り回転しないで緩む(軸力が低下する)
・ネジが戻り回転して緩む(回転部などでその回転がネジを緩ませる作用をする)
この2つの緩み方には、それぞれ緩みを生じるいくつかの原因があります。
その原因と解決策についてお話いたしましょう。
ネジが戻り回転しないで緩む場合
1) 初期緩み
ネジ頭の座面と被締結物、被締結物間のそれぞれの接触面の微小な凹凸、
これが振動などで摩耗し、つぶれて平滑になる事で軸力が低下します。
→解決策!
この緩みは、ある程度進行したところで止まります。
しばらく使ってから増し締めすることで、ネジの軸力を回復させる事ができます。
2) 陥没による緩み
被締結物の耐力がネジより低い場合など、
ネジを締めたときに座面が塑性変形する事があります。
その後、塑性変形が進行する事でその座面に陥没が起こり、
ネジの軸力が低下して緩みにつながります。
→解決策!
被締結物に接触する座面を広くするために、
座金を使用したりフランジ付きボルト、ナットを使用することで解決できます。
3) 被締結物のへたりによる緩み
構造に気密性、液密性を持たせるために固定用のシール材として用いられる
「ガスケット」などの非弾性体を挟んでいる場合、そのへたりにより軸力が低下します。
→解決策!
これはある程度進行したところで止まります。
しばらく使ってから増し締めする事で、ネジの軸力を回復させることができます。
4) 高温による緩み
数百度といった高温で使用する場合は、
ネジと被締結物の線膨張係数の差で緩みが発生することがあります。
また炭素鋼は500℃前後で再結晶するのでその際、軸力が失われます。
→解決策!
脱落防止のみであればダブルナットや緩み止めナットも有効ですが、
軸力を失わないためには設計上で注意する必要があります。
ネジが戻り回転して緩む場合
1) ネジ軸回りの繰り返し回転
回転軸の中心にあるネジは、ネジを緩める方向に回転するときに
ネジ面で滑って緩みます。
→解決策!
おねじ、めねじ間に回転抵抗を与えるよう、溝付きナットと割ピン付ボルト、
舌付座金や爪付座金で機械的にネジが回転しないようにします。
2) 軸直角変位の繰り返し
ネジの軸方向に対して直角方向に繰り返し力が掛かり、
変位が生じる事でネジ面に滑りが起こり、ネジが緩みます。
→解決策!
ダブルナットや、ネジ面を固着するための接着剤を使用します。
3) 軸方向荷重の増減
ネジの軸方向荷重増減により、少しずつ緩みます。
これは最初に説明した滑り台に載った荷物に上下方向に荷重が変動した場合、
坂を下る事はあっても登る事は無いと考えてもらえばわかると思います。
→解決策!
軸力を高めるためにネジサイズを大きくするか、本数を増やします。
4) 振動や衝撃による緩み
振動や衝撃が加わった場合、ネジの接触面が浮き、少しずつ緩んでいきます。
上述同様に滑り台の荷物がジャンプを繰り返すと考えれば解りやすいでしょう。
→解決策!
軸力を高めるためにネジサイズを大きくするか、本数を増やします。
たった 1本のネジの緩みから、大きな事故に繋がることもあります。
緩みの原因をしっかり見極め、適切な対応をすることが大切です。
博士「どうじゃ、あるる。「なんでネジが緩むのか」少しはわかったかな?」
あるる「博士ぇ〜、いろいろありすぎて、今、頭の中がネジみたいにぐるぐる回ってますよ〜」
博士「ふぉっふぉっふぉっ。そうじゃろう、そうじゃろう、ネジの世界は奥深いのだよ」
あるる「 ええええ、あの小さなものに、こんないろんなドラマがあるなんて、ビックリです」
博士「そうなんじゃ。姿形はあんなに小さいが、ネジ1本が原因で大事故が発生!なんてことにもつながりかねん」
あるる「さっきだって、ドアが博士の頭に当たっていたら、流血騒ぎになっていたかも・・・」
博士「本当じゃ!」
あるる「ネジって大切なんですねー。いうなれば“たかが「ネジ」されど「ネジ」”ですね!」
博士「おおっ、分かったようなことを言うじゃないか! あるるもネジの奥深さがわかったようなので、次回もネジの話をするぞー!」
あるる「えええっ!まだ続くの?」
博士「(にやっ) あるる、頭がゆるまない様にしっかりナットしておくように!!」
というわけで、次号も引き続きネジについてお話したいと思います。
どうぞ、お楽しみに。