いまさら聞けない基礎用語【コ】#036 降伏

公開日時:2024/08/28

みなさん、こんにちは。基礎用語、案内役のあるるです。
今回注目する基礎用語は、コチラ!
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今月の基礎用語:コ #036

降伏(こうふく)

「yield」または「yielding

 

あるる「よいしょ、よいしょ・・・」

博士「おお、あるるよ。今日は何を一生懸命つくっておるのかの?」

あるる「はいっ! 粘土で「イルカ」を作ってるんです。この前おじいちゃんと水族館に行って、イルカショーがとっても楽しかったんで、その思い出を形に・・・」

博士「意外と器用じゃのぅ。よくできておるではないか」

あるる「ありがとうございます! あともうちょっとで完成です。えっと、尾ひれにもっと動きを持たせて・・・」

博士「あるるよ、だいぶ粘土が乾いてきているようじゃぞ。粘土の降伏点に気をつけるのじゃ」

あるる「え?? 粘土のコウフク?」

博士「これ以上変形できなくなることを『降伏』というのじゃ。このまま曲げるとポロッと取れてしまうかも・・・」

あるる「あ”っっっ!!!(泣)」」

博士「あ〜〜。やってしもうたのぅ」

あるる「なんですか? その粘土のコウフクって。これじゃコウフクじゃなくて「不幸」ですよ〜〜(シクシク)」

博士「気を落とすでない。わしも手伝ってやるから。その前に「降伏」の復習じゃな」

 

第5回「強さって何?~引張り強さと耐力~」で、降伏点耐力の話をしました。

再度、その箇所を見てみましょう。

 

2) 降伏強さ、耐力

ひずみが大きくなると、ひずみと応力の関係が比例しなくなり応力を取り除いても元に戻らず変形してしまいます。この現象を降伏」と呼びます。まさに「もうダメ」と白旗をあげて降伏している状態です。

そして、これが起き始める応力を「降伏強さ」と呼びます。

構造用鋼などはこの降伏点を持っていますが、高強度鋼やアルミニウム、銅などは明確な降伏点がありません

このような材料では、応力を取り除いたときに0.2%の永久ひずみ(変形)を残す応力を「耐力(0.2%耐力)」と呼び、降伏強さの代わりに用います。

降伏点を持つ材料では、そこまでは弾性範囲となりますが、耐力においてはすでに0.2%の永久ひずみが生じますから、弾性範囲を越えています。そのため、耐力の75%までは弾性範囲とみなすことになっています。

 

 

高強度鋼やアルミニウム、銅などは明確な降伏点がありませんが、構造用鋼などでは降伏点があり、「転位」とも深い関係があります。

応力-ひずみ線図

転位と降伏、そして耐力

降伏点付近を拡大してみると、

A点:比例限度
B点:弾性限度
C点:上降伏点
D点:リューダス帯開始点
E点:下降伏点
F点:ひずみ硬化開始点

以上5つのポイントがあります。

 

A点まではフックの法則に従う範囲です。

B点までは荷重を除いた時に、永久ひずみを残さない範囲です。
A~B間は、直線的な動きではないので、弾性範囲でありながらフックの法則に従いません。

B~C点間は、荷重を抜いても僅かの永久ひずみを残します。

そして、このC点が上降伏点です。
一般に降伏点というと、この上降伏点を指します。

この後。D~F点間は、ほぼ一定の荷重でひずみが増えていきます。

そして、F点からはひずみを大きくするために、荷重を増す事が必要となります。

 

何故このような複雑な動きになるのか、それはコットレル効果(Cottrell effect)というものが関係しています。

 

第5回「強さって何?~引張り強さと耐力~」で説明した侵入型固溶体において、固溶元素が母材の元素に対してかなり小さい場合には、刃状転位の部分に集まりやすく、下図のように侵入して固着した状態を、コットレル雰囲気(Cottrell atmosphere)と呼びます。


これによって塑性変形が起こりにくくなる事をコットレル効果と言います。

つまり、このコットレル効果によって、本来転位に降伏する応力(下降伏点)より大きな応力まで耐えることができ、これが上降点となるわけです。

 

そしてD~F点間ですが、一旦動き出すと炭素原子を振り切っているので、容易に転位が起こり滑りが生じていきます。
この区間をリューダス帯と言います。

 

それがある程度経過したところで加工ひずみにより、ひずみ硬化が起こり、再び応力が大きくなっていきます。

 

例えるならば、河川において堤防が決壊したが、流出した土砂で再び詰まったという感じでしょうか。

 

応力ーひずみ線図では、最大引張応力を過ぎると応力が減少していきますが、これは伸びにより断面積が小さくなっていくためで、単位面積当たりの応力は破断まで上昇し続けます。

 

次に、アルミニウムなどで使用される0.2%耐力ですが、これは明確な降伏点を持たない材料に対して、0.2%の永久ひずみを残す応力という定義です。

1000mmの試験片において、2mm伸びた状態が0.2%ですね。

 

なぜ0.2%なのか?

低炭素鋼の上降伏点が0.2%程度の永久歪みを残すからという説もありますが、そんなに安定したものではないので、本当のところはわかりません。

材料の種類によっては0.3%や0.5%耐力も使用されるようですが、
アルミニウムに置いては通常、0.2%耐力を使用します。
そして、簡易的に比例限度を耐力の75%程度と考えます。

 

ちなみに、比例限度や弾性限度は現実的に測定が困難であり、0.02%の永久ひずみを残す応力を弾性限度と定義するようです。

そういった事から、比較的明確な上降伏点や0.2%耐力が基準として良く用いられます。

 

あるる「「なるほど〜〜〜。降伏点ってまさに『もうダメ〜と白旗を上げている状態』なんですね。なんてわかりやすい!!」

博士「お、今回はあるるの脳に届いたようじゃな。前回は全面降伏しておったが(笑)」

あるる「ええええ、難しすぎて『降参です』って言ったら、すかさず博士に『降伏じゃ』と指摘され・・・」

博士「ふぉっふぉっふぉっ。そんなこともあったのぅ」

あるる「今回の復習でしっかりインプットできましたので、もう忘れません!」

博士「一歩前進じゃな。えらいぞ、あるる。よし! 降伏がわかったところで、もう一回粘土づくりにチャレンジじゃ! わしも何か作るぞ〜〜〜(ぐいぐい←博士の腕まくりの音)」

あるる「はいっ!! ・・・って、博士、がぜんヤル気いなってますねー。降伏からの『幸福スイッチ』が入っちゃったんでしょうか。ま、楽しそうだからいいか♪」

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