【今月のまめ知識 第70回】 タイヤの摩擦円
公開日時:2019/01/30
とあるのんきな朝のひととき・・・
あるる「博士ぇ〜、おはようございます! 今日もよく降りますねぇ、雪」
博士「あるる、おはよう。この分じゃ、だいぶ積もるのぅ」
あるる「帰り、大丈夫ですか? いつもお車ですよね」
博士「そうじゃが、まぁ、雪国運転歴は長いから、なんとかなるじゃろう」
あるる「おじいちゃんもいつもそんなこと言ってますけど、この前、結構危なかったんですよ」
博士「え? どうしたんじゃ?」
あるる「信号で止まろうとしたら、ツーっと滑ってしまって・・・」
博士「スリップか。それは危なかったのぅ」
あるる「周りに誰もいなかったんでセーフだったんですけど、めっちゃドキドキしましたよ。あの時のおじいちゃんの顔ったら!ぷぷぷ(笑)」
博士「おいおい、笑い事じゃないぞ。無事でなによりじゃ。
回避できたのは、おじいちゃんがちゃんとタイヤの摩擦のことを知っていたからじゃな」
あるる「まさつ? 摩擦って、あの、こすり合わす摩擦?」
博士「そうじゃよ」
あるる「それが雪道とどんな関係が???」
博士「雪国っ子の常識じゃぞ(ニヤリ)」
あるる「え?そうなんですか? 早く教えてくださいよ!」
博士「ふぉっふぉっふぉっ。よし! それでは話してしんぜよう」
【番外編】雪国の常識「タイヤの力学」を理屈っぽく♪
ここ最近「AI」や「IoT」「5G」など、未来が楽しみになる話題が目白押しですが、中でも注目度が高いのが、「車の自動運転」だと思います。思った以上に進化の進歩が早く、今後の展開が楽しみですが、まだ当面は人の技術で運転が必要ではないでしょうか。
今回は番外編で、自動運転になる前に楽しんでおきたい「タイヤの力学」について、雪国のみなさんが身についている事を理屈っぽくお話します。
通常、タイヤは摩擦力によって加減速や旋回を行っています。
この摩擦力は、凝着摩擦力という、ゴムならではの性質で非常に高い摩擦係数を発生します。
スタッドレスタイヤの場合は、低温でもゴムの柔らかさを保つ性質があり、
ブロックの角などでのひっかきによるエッジ効果に加え
積雪路では、ブロックで踏み固めた凸型部のせん断力、
氷上路では、細かいサイプが水分を吸い上げ、タイヤを氷に密着させることでの凝着摩擦力
により力を伝達します。
タイヤの摩擦円
これらのメカニズムも面白いのですが、今回は運転に直接関係のある摩擦円についてお話したいと思います。
摩擦円とは、タイヤのグリップの限界を円で表したものです。
この円の半径は、タイヤに掛かる荷重が大きいほど大きくなり、また、路面の摩擦係数が高いほど大きくなります。
タイヤに掛かる荷重は、
減速時には前輪が大きく、後輪が小さくなり
加速時にはその逆で前輪が小さく、後輪が大きくなります。
また、旋回時には、外側のタイヤに掛かる荷重が大きくなります。
このように4本のタイヤに掛かる荷重は、走行中絶えず変化しています。たとえ変化のない路面を走行していても、4本のタイヤの摩擦円の大きさは変化している(各タイヤが耐えることが出来るグリップ力は変化している)わけです。
自動車の挙動はとても複雑で、全体の動きは重心位置や回転中心など色々な条件が絡み合いますが、あえて単純に1本のタイヤに掛かる力のみに注目してみましょう。
まず、直進時には加速、減速ともに摩擦円の限界までグリップするので単純です。
雪道など滑りやすい路面では摩擦円が小さくなっているので、ゆっくり走る、以上です。
何を当たり前のことをと思われるでしょうが、次が面白くなってきます。
旋回時に加速も減速もしなければ、直進時同様、摩擦円の限界までグリップするので単純ですが、旋回中にブレーキを踏んだり急加速をするとスリップします。
このメカニズムを摩擦円で説明しましょう。
タイヤの能力の80%で、旋回中にタイヤの能力の80%の加速をすると、
下図のようにその合成力は摩擦円の100%を越えてしまうのです。
通常は意識することもないでしょうが、雪道では非常に分かりやすくなります。
現在の自動車では、トラクションやスタビリティをコントロールする機能が付いているので、自動車の方でカバーしてくれることが多いのですが、摩擦円を意識すると滑りやすい路面でも安全に走ることが出来るでしょう。
下り坂では後輪の摩擦円が小さくなっている。
上り坂では前輪の摩擦円が小さくなっている。
滑りやすい路面で旋回中は、出口に向かって行く過程で遠心力が減少していく分、アクセルを踏むことが出来るわけで、この時に摩擦円を意識して、合成ベクトルの変化の過程を感じてみてください。
あくまでも、安全運転で!
雪道や凍結時には減速はもちろん、早めのブレーキを心がけて、スリップしないように気をつけましょう。
博士「どうじゃな、あるる。わかったかの?」
あるる「えっと、下り坂だと前輪が・・・あれ、前輪だったっけ? わかんなくなっちゃったけど、小さくなるんですよね!」
博士「ちょっとあるるにはややこしかったかの?」
あるる「ええ、まぁ・・・」
博士「まぁ、運転するようになれば、感覚でわかるようになるはずじゃ」
あるる「ですよねぇ〜。その日を楽しみにしてます! でも、今日はしっかりわかったことがあります!」
博士「おお、偉いぞ、あるる。なんじゃ?」
あるる「雪道はゆっくり走る!以上!」
博士「ふぉっふぉっふぉ〜。その通りじゃ!」