【今月のまめ知識 第9回】 「ねじり剛性」について
公開日時:2013/12/17
博士「早いもので、今年ももうすぐおしまいじゃなー。もう新年の準備はできているのか?」
あるる「いいえ、何にも…。強いて言えば「お餅」をいっぱい食べていることくらいでしょうか」
博士「いかにもあるるらしいのぅ(笑)ところであるる、お前は丸餅と四角い餅ではどちらが好きか?」
あるる「えーっ・・・両方\(^o^)/ ○も□も美味しくってダーい好き!」
博士「ま、そうじゃろうな。お餅はカタチによって味が変わることはないと思うが、実は金属にとって「カタチ」はとっても重要だということは知っておるかな?」
あるる「え?カタチってそんなに大事なんですか?」
博士「そのとおり。どの辺りが重要なのか、今日はそんな話をするから、しっかりと聞いておくように」
あるる「はーい」
これまで、アルミニウムとスチールの比較を、材料そのものの物性と、機械的性質から行ってきました。
その中で、アルミニウムは押出し成形によって複雑な形状を作り出せるというお話をしました。
今回は、材質の違いではなく、形状の違いから、気をつけるべき事について説明いたします。
それが 「ねじり剛性」です。
「ねじり剛性」に気をつけろ!
10月号の【Q&A】No.7 (選定を相談したいのですが)で、
鋼材をアルミフレームに置き換える場合には、
「曲げ剛性」が同じになる部材を選べば良いとお話しました。
梁としての曲げ剛性は、縦弾性係数×断面2次モーメントで、
棒としてのねじり剛性は、横弾性係数×断面2次極モーメントとなります。
まずは、違う材質で形状が似ている物の「曲げ剛性」と「ねじり剛性」を比較してみましょう。
スチール20mm角 VS アルミニウム26.5mm角
それでは、簡単な形状の正方形断面の棒で比較します。
まずは、曲げ剛性から・・・
下記の計算から、スチールの20mm角と同等の曲げ剛性をもつアルミニウム角材は、26.5mm角程度となります。
縦弾性係数
スチール:206000N/mm2
アルミニウム:68000N/mm2
矩形断面での断面2次モーメントは(b:幅,h:高さ)
I=b×h3/12
□20では
I=204/12=13333mm4
□26.5では
I=26.54/12=41096mm4
となります。
スチール20mm角の曲げ剛性は
206000×204/12=27.5×108Nmm2
アルミニウム26.5mm角の曲げ剛性は
68000×26.54/12=27.9×108Nmm2
続いて、ねじり剛性は・・・
横弾性係数
スチール:83000N/mm2
アルミニウム:24500N/mm2
矩形断面での断面2次極モーメントJは、Ix+Iyですから
スチール20mm角のねじり剛性は
83000×(204/12)×2=22.1×108Nmm2
アルミニウム26.5mm角の曲げ剛性は
24500×(26.54/12)×2=20.1×108Nmm2
となります。
この結果から、スチールとアルミニウムを比較すると
横弾性係数比率 3.4:1 に対し
縦弾性係数比率が 3.029:1 と
縦弾性係数比率が若干低い分、ねじり剛性値が小さくなりますが、曲げ剛性もねじり剛性もほぼ同等レベルであると言えます。
よって、結論!
このことから、材質が異なっても同様の形状であれば、
梁の「曲げ剛性」と「棒のねじり剛性」は同等である
と言えます。
また、それぞれの 1m あたり質量は
スチール
20×20×1000×7.8×10-6=3.12kg
アルミニウム
26.5×26.5×1000×2.7×10-6=1.90kg
となり、
同等の剛性でありながら、アルミニウムの質量はスチールの約60%と、非常に軽いことが解ります。
ここからが本題! 複雑な形状の曲げ剛性とねじり剛性は?
さてここからが本題です。
構造用アルミフレームは単なる角棒や角パイプではなく、外周にナット挿入溝を持つ複雑な形状となっています。
見方を変えると、60角のアルミフレームは、その外周が窪んでいるのではなく、一回り小さな角パイプから、外側に向かって矢印状に四隅が飛び出している形状にも見えます。
構造用アルミフレーム
一回り小さな角パイプから外に向かって四隅が矢印状に飛び出しているように見えます
曲げ剛性は、重心から離れたところに肉があるほど強くなりますが、ねじりに関しては上述の飛び出した矢印形状部分は、ねじり剛性には貢献度が低いのです。
この外形に凹み形状のある断面のものは、断面2次極モーメントに関して単純にIx+Iyとすることができず、理論計算もできません。
当社では、実験、FEM解析、モーダル解析など複数の手法によって各々の部材でのJの値を定義しています。
それを元に比較検討したものが、以下の表です。
図表①
この表から解ること
まずは、アルミフレームと曲げ剛性が相当するスチール角パイプで比較します。
AFS-3060-6 とスチール角パイプ 50×20×2.3t を比較すると
曲げ剛性(曲げこわさ)は、x軸4617:4020・y軸17408:18178 で、ほぼ同等。
ねじり剛性(ねじりこわさ)は、945:8944 とアルミフレームが約 1/9 と極めて弱い。
AFS-6060-6とスチール角パイプ50×50×2.3tを比較すると
曲げ剛性(曲げこわさ)は、30124:34361 でほぼ同等。
ねじり剛性(ねじりこわさ)は、4463:27689 とアルミフレームが約 1/6 と極めて弱い。
次に、アルミフレームとねじり剛性が同等の、単純なアルミ角パイプの寸法を想定して、それをアルミフレームの図に重ねてみたものが、赤色の図形です。
AFS-3060-6と仮想 □26×26×2tアルミを比較すると
ねじり剛性(ねじりこわさ)は、101.2:97.4 とほぼ同等。
AFS-6060-6と仮想 □43×43×2t アルミを比較すると
ねじり剛性(ねじりこわさ)は、478.2:483.4 とほぼ同等。
これを見てわかる通り、ねじれに関しては外側へ出っ張った部分は、ねじれ剛性にあまり貢献していないことが解ります。
また、黒色図形と赤色図形は同じアルミニウムですから、材質によるものではなく、形状によるものであることが解ると思います。
ですから、構造用アルミフレームを使用して、部材にねじりが掛かる構造体を設計する場合には、ねじれを抑えるような部材構成を考慮する必要があります。
具体的には
・長方形断面の部材より正方形断面の部材の方が有利である
・長方形断面の部材を使用する場合は、中間に梁を追加して、日の字、目の字型のラーメン構造として剛性を上げる
などが必要になります。
博士「どうじゃあるる。ちょっと難しかったか?」
あるる「素材の違いだけでなく、カタチも随分影響するんですね。奥が深いなぁ・・・」
博士「おお、だいぶ分かってきたようじゃな。感心感心」
あるる「博士、ひとつ聞いても良いですか?」
博士「ん、なんじゃ?」
あるる「今日のお昼は、お雑煮にしますか?それともラーメンにしますか?」
博士「やっぱり・・・「ラーメン構造」のところで、アルルの目がキラリと光ったのを、わしは見逃さなかったぞ」
あるる「だって、ラーメンって言うから・・・」
博士「よし! ではラーメンを食べながら、この続きを話すことにしよう。行くぞ、あるる!」
あるる「えー、授業は終わったんじゃないんですかぁ・・・ あ、待ってぇ〜、博士ぇ〜!!」