【今月のまめ知識 第72回】 クリーンブースの換気・排気について
公開日時:2019/03/20
とあるのんきな昼下がり・・・
教室中にもくもくと煙が立ち込めていた。
博士「なんじゃ、この煙は?! 何事じゃ?」
あるる「あ、博士ぇ〜、ちょうどいい感じに焼けましたよぉ〜」
博士「??! 焼肉?!(驚)」
あるる「はいっ! いいお肉が手に入ったので、ぜひ博士にも食べて頂こうかと♪」
博士「。。。あ、ありがとう・・・」
博士「それにしても、この煙、なんとかならんか」
あるる「そうですかー、ちゃんと換気扇つけてるんですけどぉ〜」
博士「換気扇だけじゃ間に合わんのじゃな。窓も開けんとな」
あるる「へ。窓ですか? じゃ、開けてきますよ」
博士「いや、あるるよ。やたらと開ければいいというもんじゃないんだぞ」
あるる「そうなんですか?」
博士「換気扇から遠いところの窓を開けると、効率よく空気が流れるんじゃ」
あるる「へぇ〜、知らなかった〜 さすが博士っ!」
博士「でも、開けすぎてもダメだぞ。排気部の面積が重要なんじゃ。たとえばクリーンルームでは・・・」
あるる「いやだなぁ〜、博士、クリは焼いてませんよ。今日はお肉です! さ、早く食べてください」
博士「・・・あ、・・・うまいのぅ・・・」
クリーンブースは簡易的に囲われた空間に、天井または側面からHEPAフィルターを通した
クリーンエアーを送りこみます。
そしてパーティクル(塵)を含んだ空気を排出し、ブース内を換気して清浄度を保っています。
換気するという事は密封してはいけないわけで、排気する部分が必要となります。
フロアがグレーチングになっているクリーンルームでは、天井から供給されるクリーンエアーを
フロア下へ排気しているのですが、一般のクリーンブースは床面との隙間から排気しています。
また側面にコンベアなどの開口がある場合には、そこからも排気されます。
実はこの排気開口部の面積が重要となります。
この面積が広すぎると排気風速が低く、室内の対流や人の動きで発生する気流で、
クリーンブースの外の空気がブース内へ逆流します。
しかし狭すぎると排気風速が早くなり、場合によっては床の塵などを巻き上げて
周囲に悪影響を与える場合もあります。
そういった事から通常は1.5~3m/sec程度の排気風速となるように開口面積を設定します。
仮に3m×4m×高さ2mのクリーンブースに
10㎥/minのFFUが4台設置されている場合を想定すると
ブース容積
3×4×2=24㎥
クリーンエアー供給量(時間当たり)
10×4×60=2400㎥/min
となり1時間当たりの換気回数は
2400÷24=100回/時
となります。(ISO6相当です)
ここでブース下部周囲から排気するとして
その排気速度を2m/secに設定すると
排気面積は
2400÷3600÷2≒0.333㎡
となり、ブース下面の隙間は
0.333÷(3×2+4×2)≒0.0238m→約24mm
となります。
都合により、ジャッキボルトでレベルを設計値より24mm上げたとすると
開口面積は2倍になり排気風速は1m/secとなってしまいます。
(家庭用扇風機の風速はタイプによりますが、概ね1~4m/sec程度ですので
1m/secというのは扇風機の微風レベルと考えて良いでしょう。)
これでは横を人が通ったレベルで外気がブース内に逆流してしまう可能性があります。
また、ブース内で吸引などを行っている場合はその風量を考慮しなくてはなりません。
この排気風速が心配で開口面積を狭くすると、パーティクルを含んだ空気がスムーズに排気されないことに加え、
ブース内圧が高くなって支障が出ることがあります。
【豆知識vol.62】空気、その圧力差で抗力の式を説明していますが
排気風速2m/sec時の内圧は
となります。
Cd値は、パンチングメタルの穴や狭い隙間であれば最大1.4程度かと推定しますが
通常の十分な開口であれば、1で良いでしょう。
もし開口面積が狭く、風速が5m/sec程度だったとすると(扇風機の強より少し強いくらい)
重量換算で約2.5kgの荷重となりますから扉の開け閉めにかなりの注意を要するレベルとなります。
簡易クリーンブースは簡単に設置できますが、換気回数や排気開口面積など注意しないと
その性能を活かしきれないことがあります。
博士「どうじゃな、あるる。換気・排気のツボはわかったかの?」
あるる「計算はちょっと難しすぎましたが、クリーンブースに隙間があった!ってところが衝撃でした」
博士「おぉ、そうじゃったのか。知らなかったのか?」
あるる「はい〜。てっきりピッタリ閉じられた密室だとばかり思ってましたから・・・。勉強になりました!」
博士「そうかそうか、理解は後からついてくる。今はその新鮮な驚きを大切にするんじゃぞ」
あるる「はいっ!! あ、新鮮な驚きといえば・・・」
博士「なんじゃ、まだあるのか?」
あるる「博士があんなに焼き方が上手だとは・・・恐れ入りました」
博士「ふぉっふぉっふぉっ。美味しいものは美味しく食べたいからのぅ。焼肉だって科学の目でみたら、面白い発見があるんじゃぞ」
あるる「えっ?そうなんですか?! 教えてください! ぜひ教えてください。美味しい肉の焼き方!!!」
博士「やっぱり食いついたのはそっちか・・・、あるるらしいのぅ」