第8話 20年ぶりの天体望遠鏡 ~最新技術満載にビックリ仰天!~
公開日時:2023/10/25
天体望遠鏡の思い出
「遠くて近いもの、なーんだ?」
子供のなぞなぞみたいですが、今回は、遠くて近い存在の「宇宙」を探訪するための道具、「天体望遠鏡」について語ってみたいと思います。
なぜ「遠くて近いか」というと、宇宙の天体は大変遠いところにあっても、夜に空を見上げればその様子が見えるので、「近い」とも言えるからです。
古来から日本では、かぐや姫や七夕(たなばた)、中秋の名月など、夜空の世界は身近な存在でした。思い返せば、私が小学生の頃は、星空がきれいに見えていて、宇宙への憧れがありました。家の近くの市の施設の大きな天体望遠鏡を覗かせてもらったり、使い方を教わったりした、楽しい思い出があります。
天体望遠鏡で見るゴツゴツした月面のクレーター、麦わら帽子のような土星の輪、宝石箱のような星雲や星団は、遠くの異世界を身近に体験するものでした。
そんな科学少年も大人になって、いつの間にか夜空を見上げることも少なくなってしまっていました。
20年ぶりに天体望遠鏡ショップへ
それがここ最近、改めて宇宙を楽しんでみたい、そして子供の頃に天体望遠鏡で覗いたあの時の感動をまた味わってみたい、という思いがフツフツと沸いてきたのです。
そこで、ある休みの日に、ワクワクしながら、おおよそ20年ぶりに天体望遠鏡のショップを訪問しました。ショップのご主人に今の気持ちを伝え、おすすめの天体望遠鏡や、天体の撮影のための機器を教えていただきたいと、お話しました。
「20年ぶりだとすると、以前とはだいぶ違ってきてますね」
というご主人の言葉から会話が始まりました。
眼視か撮影か? 最近は「電視観望」が流行
ショップのご主人からまず尋ねられたことは、「眼視か撮影、どちらを優先するか?」という選択でした。何を優先するかによって、機材の選定の基本が異なると言うのです。
「眼視」とは文字通り「眼で視る」こと。望遠鏡を自分の目で覗いて天体を観察するスタイルです。「撮影」は、望遠鏡にカメラを取り付け、カメラで撮った画像をパソコンなどで観察する方法です。
自分が何をやりたいかによって、選ぶ道具が変わってくる。そんな道具選びも技術者としては萌えポイントですので(笑)、もう少し詳しく説明しましょう。
眼視の場合は、望遠鏡を覗いた時、中心の画像がクッキリしていることが大事で、逆に周辺のゆがみやにじみはあまり気になりません。
撮影の場合は、周辺を含めて画像の全体がクッキリしていることが大事。これは、20年前の当時はカメラといっても「フイルムのカメラ」でしたが、同じ原理だったので、納得でした。
さらに、最近はデジタルカメラの感度が向上したので、カメラの画像をその場でモニターで観察する「電視観望」を楽しむ人が増えているとのこと。これは初耳の情報でした。
また、眼視でも撮影でも「どのくらいの大きさの天体を主に見たいのか」によっても、望遠鏡の選定が変わります。大きいサイズだと「星雲や星団」、小さいサイズ(といっても大きいですが 笑)は「遠い銀河や、土星などの惑星」のことを指します。
このサイズ感については、子どもの頃の記憶が残っていたので、「どちらかというと、星雲や星団を写真にきれいに撮ってみたい」という希望を伝えると、おすすめの機材のリストを2通り作成してくれました。
そろそろ店を出ようとした頃、「ちょうど本日、近い場所の山の上で「天体観望会」があります。そこへ行けば、たくさんの人が、いろいろな楽しみ方をしているので、参考になりますよ」、とご主人。
なんというタイミング! せっかくなので行ってみることにしました。
天体の見た目の大きさ
天体観望会の様子をご紹介する前に、基本的な天体の見方について、簡単に説明しつつ、豆知識を少々。
空を見上げて見た時の天体の大きさは、「角度」(視直径)で表されます。例えば、太陽と月はほぼ同じ大きさで約0.5度(30秒)、これは、手を伸ばした時の小指の幅が約1度なので、その約半分の大きさです。
地平線から上がってきた満月などを「大きいなぁ」と思うことがよくありますが、小指の幅の半分しかないとは意外ですね。
大きく見える天体の代表は「アンドロメダ銀河」(以前はアンドロメダ星雲と言っていました)が約3度、月と比べて、ずいぶん大きいです。アンドロメダ銀河は、夜空の暗さに目が慣れてくれば、黒い空に浮かぶ白いシミのように見えます。
また、冬の星座の代表「オリオン座」の腰のあたりに見える大きな星雲「オリオン座大星雲」が約1度。これも大きく見える天体の代表です。
一方で、小さく見える天体の代表は、輪があって麦わら帽子のように見える「土星」です。これは地球に近づいて、大きく見える時でも約0.005度ですので、月のサイズの100分の1と、ずいぶんと小さいのです。
いざ、観望会見学会へ!
クルマを走らせて1時間ほどで、その観望会が行われる山の上の駐車場に着きました。この山の上の駐車場は、街からさほど遠くはないのに、街の光が視界に入らない場所なので、星空の観望に適しているのですね。
駐車場には夕方の4時ごろに到着しました。本日の日の入りは夕方6時。暗くなるには、あと2時間以上あります。運がよいことに、空は雲も少なく、青く晴れて澄んでいて、きれいな星空が期待されます。
駐車場の一部を区切って観望エリアに指定されており、すでにたくさんの人が、観望の準備を進めています。
シートを敷いて、寝転がって星空を見ようという人
リクライニングチェアを置いて、のんびりと星空を見ようという人
三脚を設置して、大きな望遠鏡の組み立てを進めている人
双眼鏡で、まだ明るい山々の景色や、その山の上を悠々と飛んでいる鳥を観察している人・・・
みなさん、思い思い、いろいろなスタイルで、これから星空を観望しようと、準備をしています。
その中に、先ほどのショップのご主人に勧められた機材に近い望遠鏡を設置している方がいらっしゃったので、お話して、準備の様子を見せていただきました。
小型でオシャレ・・・時代の変化を肌で感じる
一見してわかったのが、撮影用の望遠鏡本体、いわゆる「鏡筒」といわれる筒の部分が思ったより小型なことです。
星雲や星団などの「大きな天体」を撮影する望遠鏡は、レンズの大きさ(口径)に比べて、長さ(焦点距離)が短くなります。f値(焦点距離を口径で割った数字)は小さなもの(f5~f6)が主となります。
今回見せていただいた望遠鏡の場合は、口径が72mm、焦点距離が400mm、従ってf値は400/72≒5.6となります。
鏡筒を固定するための「鏡筒バンド」などのアルミ部品は、赤のアルマイト表面処理で、デザインもオシャレです。以前の天体望遠鏡は、各部の塗装は白が基調で、金具の部分はほとんど黒一色だったのに比べて、イメージ一新です。
また、以前の撮影用の天体望遠鏡は、カメラのフイルムの感度が限られていたので、天体からの光量を稼ぐために、口径は90mm以上の大きなものが主流だったと思いますが、現在はデジタルカメラの感度が向上した上に、何十枚も撮影した画像を「スタック(重ねる)する」画像処理ソフトが進化しているため、口径が30~80mmの小型望遠鏡でも、驚くような素晴らしい写真が撮れるようになっている、ということらしいのです。
そして何より驚いたのが、赤道儀と三脚の小型軽量化でした。
赤道儀の思い出
「赤道儀」というのは、日周運動で動いていく星を望遠鏡の視野の同じ場所に留めるために、望遠鏡の向きを星に合わせて追従させるための機械です。
私が子供の頃にも、個人の望遠鏡で使う小型の赤道儀はありましたが、自動的に追従させるモーター機構(モータードライブ追従機構)は、一部の機種だけに用意されていた高級オプションでした。
ですので、モータードライブ無しで、長時間露出して星の写真を撮るためには、その追従の動作を「手動」で行う必要がありました。
具体的には、カメラが撮影する望遠鏡とは別のもう1本の望遠鏡(ガイドスコープ)を覗いて、中心に見える十字線に目印となる星が同じ位置と言いますか、ほとんど重なるように位置を調整していきます。
これがまた根気のいる作業で、ピタッと合うまでに赤経軸(空の北極を中心に回る軸)のハンドルを手動で、数分から数十分、ある時は数時間もハンドルを回転させ続ける、ということもありました。
集中力が途切れると星の位置がズレたり、視野から外れていなくなってしまいます。また、何かの拍子に望遠鏡の三脚に自分の足が触れてしまったりしても、位置が大ズレして、その撮影は中止です。
かえすがえすも本当に大変な作業でしたが、現在の赤道儀は、その追従の動作をモーターで自動で行うのはもちろんのこと、ガイドスコープに付けた小型デジタルカメラの画像に連動して、微小な追従ズレをリアルタイムで補正する「オートガイド」が普通になっているとのこと。その進歩にもビックリしました。
モーター自体も様変わりしていました。
以前のサーボモーターから、現在はステッピングモーターが主流になっていて、その制御は細かい「マイクロステップ駆動」です。
また、従来からの「ラック&ピニオン」の歯車機構に代わって、「波動歯車」(ハーモニックドライブ等)も導入されている機種もあり、歯車のガタ無しで、大きな負荷をバランサー無しで受けられる、小型の赤道儀が販売されているのも、ビックリ仰天です。
勢い余ってかなりかマニアックな話をしてしまいましたが(笑)、世の中のメカトロニクスの進歩が、この趣味用の望遠鏡の世界に、導入されている!ということへの感動の証として、ご容赦ください。
三脚の驚きの変化
そして、技術の進歩はカメラを支える三脚にも、大きな変化をもたらしていました。
鏡筒と赤道儀が小型軽量になり、追従ズレも自動で補正されるようになったことで、「重くて大きい」のが金科玉条だった三脚は、今では小型軽量化されていました。
移動運用重視の三脚は、軽量な「カーボンファイバー製」のものまで発売されています。
時代は変わりました。
20年で激変したカメラ事情
そして、この20年で最も大きく変化を遂げたのが、天体を撮影するための「カメラ」でしょう。フィルムからデジカメ、そして冷却CMOSカメラへと、劇的な変化を遂げています。
20年前は、まだフィルムで撮るカメラが主流でした。デジカメは出てはいたけれど、撮像素子のサイズは小さく、感度も低いものでした。
それが現在では、サイズはフィルムと同じ「フルサイズ」、感度は暗やみでも昼間のように撮れる「超高感度」が普通となりました。
天体撮影専用のカメラも各社から、いろいろと発売されていて、選ぶのに困るほどです。天体撮影専用のカメラは、撮像素子を冷やすためのペルチェ素子が内蔵されていて、長時間露光時のノイズを低減、また露が付着するのを防止するヒーターも内蔵するなど、非常に高機能なものになっています。
どのくらい高感度かというと、街中の家のベランダから、目では明るい星が数個しか見えない夜空でも、天体の波長に合わせた「バンドパスフィルター」を使えば、街の光はブロックしてくれて、星雲や星団の写真が10分程度の露出時間で撮れるほどなのです。
コントロールシステムは「ラズベリーパイ」
これらの天体望遠鏡の電子機器を全体で制御する便利な機器も市販されています。
赤道儀、ガイドスコープ用カメラ、オートフォーカス、撮影用カメラ、これら4つの機器をUSBで接続して、自動的に制御します。
以前は、これらはパソコンに接続して、それぞれを専用のソフトで制御するなどしていましたが、現在は、タバコの箱ぐらいの大きさの制御装置1個で可能となっているのにも驚きました。
このタバコの箱の中身は、「ラズベリーパイ」のミニPCボードが入っていて、さらに、この制御装置は、WiFiで、スマホや、タブレットにつながって、天体望遠鏡から離れた、室内や車の中やテントの中で、画像を観察したり、撮影作業ができるという優れものです。
星空観望の楽しみ
そうこうするうちに、日も暮れて、空が暗くなり、星々が見えてきました。天気にも恵まれて、天の川の姿も見えてきて、満天の星空です。観望会の会場では、みなさん、準備完了、思い思いのスタイルで、夜空を楽しんでいました。
最新型の望遠鏡もありましたが、長年パートナーとして連れ添っている「お気に入りの望遠鏡」も大変多かったです。名機と言われている望遠鏡は、何十年経っても古くならず、現役で活躍していることが確認できました。
覗かせてもらえる望遠鏡では、特に家族で来ている子供さんは、望遠鏡を覗いて、土星の輪など見て、ビックリ、そして大喜びしていました。
「大砲」のように太い鏡筒を、簡易的な架台で支える望遠鏡「ドブソニアンタイプ」では、直接の「眼視」でも土星の輪が大きくはっきりと見えました。
一方で、「電視観望」で大きなモニター画面で楽しんでいる望遠鏡も多くありました。目で覗いただけでは、暗くて見えない天体も、高感度のカメラと、ソフトウェアでスタックして明るさや色を増して、クッキリと鮮やかな美しい、星雲や星団、二重星などが見えていました。
さて、私は、20年ぶりに、どんなスタイルで始めてみようか。いろいろと考えてみるのもまた楽しみです。まずは、古い双眼鏡を引き出しの奥からひっぱり出して、近所の河川敷に寝転がって、星の世界を見て回ることから始めてみようかな。。。
今回は以上です。